15 『新刊通俗演義三国志史伝』の性質
単著
1997年平成9年12月
（中国古典小説研究会）『中国古典小説研究』第３号６〜17頁
スペイン・エスコリアル修道院に所蔵される『三国志演義』の一版本『新刊通俗演義三国志史伝』（以下、「葉逢春本」と略称）をとりあげ、『三国志演義』の諸版本の中における位置づけを考察した。
まず本文の繁簡や本文中に見られる改則の個所の違いから、葉逢春本は余象斗本などと同じ二十巻繁本系諸本の一つであることを確認した。
そして葉逢春本とその他の二十巻繁本系諸本の文章を細かく比較検討することを通して、葉逢春本の性質を明らかにした。すなわち、葉逢春本の文章は全体的に余象斗本などよりも古い形をしているのであり、それは周静軒詩が挿入された後でかつ花関索説話が挿入される前の段階に位置づけられるものである。歴史書などによって修訂されない比較的原作に近い本文に周静軒詩が挿入されて葉逢春本のような本文ができ、そこに花関索説話が挿入されて「二十巻花関索系祖本」とでもいうべき繁本ができて、そこから余象斗本など現存する花関索系諸本ができたのである。