38 黄正甫刊『三国志伝』三考
単著
2010年９月
《三国志研究》第５号，P85-P97
黄正甫刊『三国志伝』は中国国家図書館に蔵され、明末時期に出版された『三国志演義』の一版本である。黄正甫本は間違いなく刊本系統に属するものであるが、しかしその文章には他の刊本系統の版本と異なるところがある。その違いを子細に検討してみると、時に繁本系統と一致する個所、黄正甫本独自の文章がみられる。このことによって、黄正甫本は部分的に『三国志演義』の比較的古い形を留めているところがある一方、黄正甫本（あるいは比較的近い祖本の段階）で独自に改変された個所があると言えよう。
『三国志演義』諸本三系統それぞれの文章の類似度を調査したところ、刊本諸本の類似度は二十四巻系諸本・二十巻繁本系諸本に比べて差異が大きいことが分かった。これは、繁本系統の文章は一度確定されたら、詩や物語を新たに挿入することを除いて、文章を故意に改めることはなかったが、一方簡本は編集される段階においてしばしば文章が改編されたことによるのであろう。