76 致和堂本『三国英雄志伝』について
単著
2022年３月
『立正大学人文科学研究所年報』59号（立正大学人文科学研究所）、P1-P19
最近発見された『三国英雄志伝』の版本の中で、『新刻按鑑演義京本三国英雄志伝』と題する本がある。二十巻本である。この版本の本文版心の下に「致和堂」という文字が見え、よってこの本は書肆致和堂から刊行されたものだと分かる。
致和堂本は確かに「英雄志伝グループ」に属する版本であるが、そのうち六巻本に最も近い。しかも致和堂本は必ずしも六巻本の底本ではないが、六巻本の祖本と密接な関係にある。冒頭12則に二十四巻系の影響があり、13則以降が『三国英雄志伝』の文章になっている「先繁後簡」は、従来六巻本の特徴であると考えてきた。しかしこの性質は致和堂本にも当てはまる。「先繁後簡」は必ずしも六巻本に始まるものではない。
致和堂本は刊行年こそそれほど早いものではないが、『三国志演義』の版本の中でも価値のある非常に重要な版本の一つである。